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名古屋高等裁判所 昭和56年(ネ)548号 判決

(昭和五六年(ネ)第五五六号事件控訴人・

辻アイ子

昭和五六年(ネ)第五四八号事件被控訴人(原告)

ほか二名

(昭和五六年(ネ)第五四八号事件控訴人・

近藤一夫

昭和五六年(ネ)第五五六号事件被控訴人(被告)

主文

第一審被告及び第一審原告らの各控訴を棄却する。

第一審被告の控訴につき生じた控訴費用は第一審被告の負担とし、第一審原告らの控訴につき生じた控訴費用は第一審原告らの負担とする。

事実

昭和五六年(ネ)第五五六号事件につき、第一審原告らは、「原判決中第一審原告ら敗訴部分を取り消す。第一審被告は、第一審原告辻アイ子に対し、金五〇三万四九二六円及び内金四八八万四九二六円に対する、第一審原告辻浩に対し、金九八三万九八五一円及び内金九四六万九八五一円に対する、第一審原告勝野敏哉に対し、金六八万七〇六三円及び内金六七万七〇六三円に対する各昭和五五年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決並びに金員支払を命ずる部分に限り仮執行宣言を求め、第一審被告は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、昭和五六年(ネ)第五四八号事件につき、第一審被告は、「原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審被告の負担とする。」との判決を求めた。

(証拠関係)〔略〕

理由

当裁判所も、第一審原告三名の本訴請求は、原判決が認容した限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきであると判断するが、その理由は次につけ加えるほかは原判決理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決書一〇枚目表一一行目中「一項の事実」の下に「(ただし同項1ないし3の点は当事者間に争いがない。)」を加え、同一六枚目表一〇行目中「認め難く、」を「認め難い。なるほど、不法行為の加害者が自責の念にさいなまれるのあまり、自らの生命を絶つ行為に出ることによつて慰藉の意思を表明するという加害者側の人格的要因は、社会及び被害者側のいだく応報的な感情を満足させる場合がないわけではないが、被害者に生じた精神的苦痛による損害が慰藉されるのは、被害者の精神的な苦痛というもつぱら被害者の精神的状態に関するものである以上、被害者がその意思によつて苦痛が慰藉される社会的妥当な手段方法を選択してこれを容認し、あるいはその適切な手段方法がない場合には、これを金銭で賠償させることによりその精神的な苦痛の慰藉が計られるものであつて、被害者の右の意思によらない方法で加害者が自らの生命を絶ち、あるいは身体を自損したからといつて、これにより慰藉料請求権が減殺されるものではないし、慰藉料額を算定するにあたりこれを斟酌すべき事由と解することはできない。もつとも、加害者が被害者側のきびしい責任追及にたえかねて加害行為に対する謝罪の趣旨で生命を断ち、あるいは身体を自損せざるを得ないような事情である場合には、慰藉料算定にあたり被害者側の事情のひとつとして斟酌の対象とすることは考えられるが、本件の場合被害者側に加害者が自殺をせざるをえない行動をとつたと認める証拠もないから、加害者が自殺したことをもつて慰藉料額を算定するにあたり、これを斟酌することは適当ではない。」に改める。

そうすると、右の限度で第一審原告の本訴請求を認容し、その余を失当として棄却した原判決は相当であつて第一審被告及び第一審原告らの各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は各敗訴の当事者に負担させて、主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)

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